19世紀初頭のパリ、厭世感を漂わせた酒、アブサンを愛飲した作家や詩人たちが横行したという。
その思考を奪う甘美な酒は、自殺者まで出したために製造を禁止されたが、それはやがて穏やかに解禁された。

そんな歴史の中のストーリーを思い起こさせるのが、ポール・ブレイのピアノ・ソロ『アローン、アゲイン』だ。
この優れたタイトルの作品は、時に『オープン、トゥ・ラヴ』と並び称されることがあるが、ブレイというピアニストとじっくり付き合っている人ならば、この2作に共通するのは、共にソロ・アルバムだということぐらいだということに気付いているはず。
シングル・トーンが、メロディラインが、というようなことを『アローン、アゲイン』の前に出すのはナンセンスだ。
ここでのピアノの響きはリリックなのだ。
ひたすら彼にまつわる二人の女性ピアニスト/コンポーザーの作品を使って“孤独を模索”しているのだ。
何度も何度も。
あの薬草たっぷりの個性的な酒、アブサンが人を彼岸に誘うならば、この『アローン、アゲイン』も、また…。

懐には笑いと、衝動と、孤独を忍ばせて歩いていたい。
と書いたのは誰だったか?
二人からの孤独、再びの孤独、ピアニストは静かにだが、一心不乱に弾いた。
あのアブサンにも通じる作品が再び世に解き放たれた。