ECMから99年に他界したいわゆる、シカゴ派のトランペッター、レスター・ボウイの追悼盤がリリースされた。
録音したのは、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ（AEC）の面々。
ジャズ界にあって、音楽の根源を見つめてきたグループ、AECは、故レスターのほかジョセフ・ジャーマン、マラカイ・フェイヴァース、ドン・モイエ、そしてロスコー・ミッチェルから成っていた。
このグループが世界を席巻したのが69年だったことを思い出すと、その長い時間の中で起きた出来事の一つ一つにさまざまな感慨がわいてくる。
このグループに最初に出会ったのは、74年だった。
レスターは、他のメンバーがフェイスペィンティングをしているのに対し、彼だけはそれをしないで白衣を着用しての演奏だったのが鮮烈。
当時の喧伝では彼は手術を受けたばかりで、体調がよくなかったという。
そういえば演奏パート以外はイスに座っていた。
この時は、ミュージシャンとリスナーという関係だけだったが、まさか将来レスターと仕事をすることになるとは思わなかったけれど、何度も会い、ちょっとした仕事をお手伝いしたことは、今となっては貴重な体験だった。
実は、AECのドラマーは、ドン・モイエで、彼はパリでスカウトされた。
AECは、ドラマー不在のまま欧州へ旅立ったのだった。
そのわけは、楽旅の直前になって同行するはずのドラマー、フィリップ・ウィルソンが突然NGを出したから。
きちんとした理由は伝わってきてはいない。
しかし、それによってミュージシャンシップに傷が付くことはなかった。
その証拠がIAIに残されたレスター、フィリップのデュオだ。
レスターが生涯に残したデュオ作は、この作品ともう一作だけだったような気がする。
大事な作品だ。

IAIには、素晴らしいデュオ・アルバムが数多くある。
ポールの作品を堪能していただいたあとには、それらを楽しんでもらおうと考えている。
スティーヴ・レイシー＆マイケル・スミス、マリオン・ブラウン＆ギュンター・ハンペル、そしてくだんのレスター＆フィリップを第2弾としてMusikでは考えている。
現在人気の「HARDCORE JAZZ」の間違いなく別バージョンとしてIAIをとらえてみることができるようになるはず。
で、AEC。
『レスター・ボウイ・トリビュート』には、ジョセフ・ジャーマンがついぞ参加することはなかったけれど、次なる『ザ・ミーティング』（PI）には、ジョセフも久しぶりに戻り再び黄金期を迎えようとしている。
恐るべしAECの求心力。
ポール・ブレイ再考のあとには、レスター研究が待っている！